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Pearl Harborから読み取るアメリカン・ヒーローの示すエートス

目次
序論
第1章 各登場人物の示すエートス
 第1節 主人公レイフの示すエートス
 第2節 ダニーの示すエートス
 第3節 黒人コックミラーの示すエートス
第2章 アメリカの目覚め
 第1節 眠れるアメリカ
 第2節 目覚めるアメリカ
結論

参考文献

序論
 アメリカ人にとって「パールハーバー」という言葉は特別な意味を持つ。この言葉の背景にある歴史観、意味は個人により様々であるが、2001年9月11日に起こるアメリカ同時多発テロの際、大統領ジョージ・W・ブッシュは彼の演説の中に「パールハーバー」という言葉を用いて多くのアメリカ国民から戦争を行うことの賛同を得た。「パールハーバー」という言葉はアメリカ人にとって特別な意味を持つのである。つまり「最終的な勝利」を連想させることや、アメリカが「眠っていた」というイコンとして機能する言葉なのである。
 イコンとしてアメリカ人の中に生き続ける「パールハーバー」を映画化したともいえる作品が同年の12月7日、ちょうど旧日本軍による真珠湾攻撃から60周年にあたる日に公開された。それが映画『パールハーバー』(Peal Harbor、2001)である。この映画は勇気あるアメリカ軍人たちによる戦いの始まりを描いた作品であり、ヒロイックに描かれる各登場人物からは国家への忠誠や友情、アメリカン・ヒーローの持つべき恋愛や結婚に対する価値観がうかがえる。そして物語後半は、アメリカは奇襲される前までは油断していたとし、「最終的な勝利」に向け登場人物達が目覚める様子が描かれている。
 本論では各登場人物の示す友情、国家への忠誠や使命感などアメリカン・ヒーローの持つべきエートスをセリフや行動から個別に考察する。また作中に描かれる恋愛観からもヒーロー的要素を探る。そして本作の日本領土へ攻撃を仕掛ける最終シーンからは、映画『トラトラトラ!』の中でも日本海軍山本五十六提督の台詞にある、アメリカは「眠っていた」とするテーマについても触れる。
 本論の第1章では、日本軍の奇襲を受ける前から奇襲を受けているシーンに現れている各登場人物の示すアメリカン・ヒーローとしてのエートスつまり国家への忠誠や友情といった称賛すべき気風や精神を行動や台詞から読み解き論じる。
 第2章では、「パールハーバー」という言葉に内包されている、眠っていたというテーマをこの映画から読み解く。そして日本による奇襲後、そのテーマに続く「目覚め」について論じる。

結論
 本論では以上のように『パールハーバー』に描かれる人物から、それぞれが示すエートスについて考察し、彼らをアメリカン・ヒーローであると結論づけてきた。レイフは幼少の頃からパイロットになるという夢を抱き、様々なシーンでその夢に対する想いの強さを示してきた。念願叶ってパイロットになった後も、彼は自らの腕を磨くことに力を注ぎ、親友のダニーや恋人のイヴリンと離れることを顧みずイギリスへ行ってドイツ軍と戦うことに志願する。そして日本による奇襲が始まると、彼は周囲の同僚を導き日本に反撃する機会を作り出す。
レイフの親友ダニーは常にレイフの身を案じ、軍人として戦うことより「友情」を重んじる人物として描かれている。また彼もレイフ同様優秀なパイロットとしてハワイに配属された同僚の中ではリーダーにあたる人物であり、レイフと共に日本軍に反撃する中心人物となる。そして彼はレイフ以外の人物にも思いやりをもって接する。彼は「社会的受容性」のある人物であり単独行動が目立つレイフとは対照的に協調性のあるタイプのアメリカン・ヒーローなのである。
 黒人軍人であるミラーは「尊敬」というエートスを示す人物であり、上官や自分の目標である「尊敬を集める軍人になる」という目標に対してひたむきな想いを示す。その目標のために彼は尊敬を集める唯一の手段であるボクシングで勝ち続け、奇襲が始まると見事一機の零戦を打ち落とし、彼は海軍殊勲賞を授与された始めての黒人軍人としてアメリカン・ヒーローの仲間入りを果たす。
 第2章では「パールハーバー」という言葉に内包される、アメリカは「眠っていた」というテーマに焦点を当て、エミリー・S・ローゼンバーグの論じた記述を元に、この映画からうかがえる「眠っていた」アメリカを論じてきた。そして奇襲後は「眠っていた」というテーマの後に必ず続く、アメリカの「目覚め」について論じてきた。アメリカは奇襲によって勝利することに目覚め、レイフたちアメリカ軍は奇襲前とは一転して「軍事的に成熟した男らしさ」を示すのである。


(1)O・E・クラップ著,仲村祥一・飯田義清訳『英雄・悪漢・馬鹿』(新泉社,1977),pp.44.
(2)Pearl Harbor(2001,Touchstone Pictures)DVD:ブエナビスタホームエンターテイメント,2004,chapter 1,以下、本作品からの引用は版とし、本文中にチャプター番号を()で標記する。
(3)亀井俊介著『アメリカン・ヒーローの系譜』(研究社出版,1994),pp.25.
(4)クラップ『英雄・悪漢・馬鹿』,pp.61.
(5)同上,pp.64.
(6)亀井『アメリカン・ヒーローの系譜』,pp.33.
(7)クラップ『英雄・悪漢・馬鹿』,pp.70.
(8)同上,pp.65.
(9)エミリー・S・ローゼンバーグ著,飯倉章訳『アメリカ人は忘れない―記憶のなかのパー
ルハーバー』(法政大学出版局,2007),pp.26.
(10)同上,pp.27.
(11)同上,pp.26-27.
(12)同上,pp.28.

参考文献
エミリー・S・ローゼンバーグ著,飯倉章訳『アメリカ人は忘れない―記憶のなかのパールハーバー―』(法政大学出版局,2007)
O・E・クラップ著,仲村祥一・飯田義清訳『英雄・悪漢・馬鹿』(新泉社,1977)
亀井俊介著『アメリカン・ヒーローの系譜』(研究社出版,1994)
佐藤忠男著『映画で読み解く「世界の戦争」―昂揚、反戦から和解への道―』(ベスト新書,2001)
「大統領ルーズベルト演説:「真珠湾攻撃を国民に告げる」」
《ttp://yantake-web.hp.infoseek.co.jp/page8-2.html》
ベス・ミルステイン・カバ,ジーン・ボーディン著,宮城正枝・石田美栄訳『われらアリカの女たち―ドキュメント・アメリカ女性史―』(共栄書房,1992)
by mewspap | 2009-02-22 12:31 | 2008年度卒論


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