かねてよりご案内のアメリカ映画コレクションが入荷。
梱包解いて並べ替え手伝ってくれたみなさんごくろうだったよ。 昨日は朝から夕方までちゃっちゃか仕事をこなし、夕暮れどきにひとり合研でアメリカ映画コレクションのエクセル・ファイルを整序する。 すると突然、問題児の卒業生が現れる。もうだいぶ前に卒業したのだが、在学中より世界の中心に自分がいるという退嬰的な自我肥大に基づく自己中の勘違い言動で周囲に迷惑をかけてきた者である。 卒業後も失敬な妄言や暴言メールに辟易していたが、以前に突然アポなしで個研にやってきて相変わらずの幼児的な罵詈雑言を弄するのにブチ切れてもう二度と来ないよう申し渡したにもかかわらず、まだ懲りないようである。 何をどう説諭しても理非を説いてもまったく無駄なので、穏当な性質で巷間知られた私のどす黒い本性が露わになりそうで恐ろしい。 とりあえず、「出て行け」「帰れ」「二度と来るな」の怒鳴り声三点セットという、その場ではもっとも穏当な表現で追い返す。 仕事のじゃまをされ不快きわまりないので、本日もいつも立ち寄る大阪駅構内のお店で晩ごはんで一杯やることにする。 お勧めの一品「鰯の唐揚げしそ風味」(これがうまいんだ)というのを注文し、ビールをぐびぐびひとり暢気にやっていると、唐揚げのかけらみたいなのが添え物の野菜の陰に隠れてらっしゃるのを発見。 箸でつまんでしげしげ眺めやると、そのからっと揚がって美味しそうなものは昆虫らしき方であることが判明(蜂のように見えるがまあ蠅であろう)。 0.3秒ほどフリーズし、我に返る。 私は緊急事態の発生に恐慌を来すということがあまりない。 阪神淡路大震災のおりも、深く深く眠っているところを激しく「揺り起こされた」が、寝起きの数秒後には頭が冷えていた。 昆虫の唐揚げという事態にも0.3秒を越える衝撃を与えることもなく、まあいいか、黙っておこうと3秒くらい思案する。 しかし、こういうことはやはりお店の人に言ってあげた方がいいのである。 ややこしい客も少なくないだろうし(大阪のど真ん中だしね)、このような事態を招来すれば暴れ出すような方や「きゃー」と金切り声をあげる方もおられるであろう。だからちゃんと言ってあげて、厨房でもより気を付けるようになるだろうという心持ちで穏やかにボーイさんを呼んでお皿を指さす。 怪訝な表情のボーイさんがさっと青ざめる。 いーのいーの、慌てない騒がない。私はここの鰯の唐揚げしそ風味が好きなので、同じものと交換してね。あ、それからそいつを突っついたりつまんだりしたお箸もなんか居心地悪いから別の持ってきてくれる? とお伝えする。 実際、私も料理をする人なので「これくらいのこと」はさして気にならない。 化学薬品で徹底消毒されてゴキ○リとかハ○も生息し得ぬような絶対清浄キッチンなんかでまともな美味しい料理を作れるわけがないじゃん。 そしてこういうゴキ○リとかハ○方面の方々もわんさかいたらぞっとしないけれど、深夜に厨房の隅っこでわずかな残飯を静かににあさっておられる方々も、決して望んだわけではなくふとした弾みで料理に「たまには入ってしまう」ものでしょう。 「そういうもの」を食する文化習慣のあるところだって世界にはあるんだし。 とは言え「昆虫の唐揚げ」は「私が注文したもの」とはいささか異なるので(魚類の唐揚げを頼んだのである)、慇懃にお返しすることにし、新たに同じものを所望する。 むろん、同じ品で、調理するのも同じ厨房、同じ揚げ油であるが、そのようなことに神経質になってはいけない。 むしろ料理人はこういった「ささいな」事故のために、せっかく作ったものを「突っ返される」のはすごくやだろうなと思う。ちぇ、わざとじゃないんだし、そのぐらい見逃せよ、神経質な不潔恐怖症の奴め、と思われてもしょうがないであろう。 実際、このお店は料理がけっこう美味しい。でも焼き物や揚げ物は駅構内にある飲み屋にしてはちょっと時間がかかる(と言っても10分ほどだけど)。 しかし交換を所望した「鰯の唐揚げしそ風味」はマッハの勢いで登場する(やればできるじゃん)。 正直、ボーイさんは「すべて交換する」と言ってたけど、前の分の食べ残し4切れに、すでに口に入れてしまった分の1切れを追加しただけで、添え物の野菜もそのままに「再提出」してきても許してあげようと思っていた(食べ物は残さず大事にするよう貧しい家庭の子ども時代に刷り込まれたから)。 でもほんとうに作り直してくれていました。 真面目だね。 でもさっきの昆虫はほんとに綺麗に揚がっていたなと思う(こんなところでも料理長は腕前を証明してみせている)。案外こんがりと風味もよろしかったかもしれない。 さらには、このお店では「飛翔」というお酒の燗がおいしいんだけど、お代わりを頼んだところ先ほどのボーイさんがささささっと寄ってきて「これをどうぞ」と一合サービスでついでくれる。 あれま、あんがと。 そのうえお店を出るときの会計では、「鰯の唐揚げの分は差し引かしていただきましたので」と言う。 あれれオン・ザ・ハウスですか。おごりですか。 そこまでせんでもええのにね。 この店はそういう点でたいへん真面目である。 以前、隣の席の中年客が立ち上がり際に自分のテーブルの端にぶつかり、ビールをひっくり返したことがある。 まあ、酔ってはるし「そういうこともあるわな」と思ったけれど、挨拶もなしにそのまま立ち去るとは酒飲みにあらざる態度である。 反対側のテーブルのお客が、「なんや、すみませんの一言もなしに、なんちゅう客や」と声を荒げ、お店の人が飛んできて平身低頭謝ってくれた。 別にスニーカーがちょっと濡れたくらいだったんだけどね。 そんでそのときの会計でも、ビールの生中一杯分はただの計算で「店のおごり」であった。真面目な店なのである。 どんなにハプニングがあろうとも、私は自分で飲み食いした分の金は自分で払う主義である(当たり前か)。別にサービスしてもらおうとは思わない。 でも、そこんとこは「主義主張」を唱えてサービスを固辞しても、お店の方としてはかえって困るであろうから、「ごっそさんでした」とにっこり笑って立ち去るのである。 私も若いときにはひたすら年長者に飲み食いを「たかった」ものである。 指導教授に張り付いて晩ごはんを食べに行き、先生の言葉に適当に相づちをうちながらひたすら飲み食いした。 親戚のおうちを襲って、暴飲暴食の挙げ句、お腹一杯になって酔いも回り、あるいは食べ物や飲み物がなくなると「じゃ、失礼します」と言い残してさっさと帰ってきてしまった。 忘恩の限りを尽くす餓鬼である。 しかし若いときは「腹が減る」ものである。若者とは「腹が減る生物」と定義し得る。飲み方も知らぬ「酒の飲み方を学習しつつ」馬鹿な振る舞いをする「執行猶予期間」でもある。 劫を経ると若かりしころの貪婪な食欲もどこぞの田舎に蟄居してしまうらしく、あまりお腹がすかない。食す量も激減する。 その摂取量の減った分、トシヨリは「腹が減る生き物」にシェアしてあげてちょうど平仄が合うのである。 最近はお行儀がよろしく飢えかつえて教師に「食いもんをねだる」学生が減ったような気がする。 私も昔のように貧乏ではないが、いまだに貧乏性が抜けず確かに「ケチ」であると後ろ指さされてもけっこうであるが、それでも食いもん飲みもんで解決し得る問題ならば、解決には微力を尽くしてあげようと思っているのである。安い店の安い喰いものに安い飲み物だけど(若いときゃ口に入ればなんでもよいのである)。 つーか私よりも昨今の学生諸君はいいものを喰ってらっしゃるのかもしれない。 昨夜はお店のおごりもあり馳走をいただいたので、勤労感謝の本日は質素倹約にて過ごす。 お昼ごはんは半チャンラーメンを作って子どもとふたりで食す。 午後、どどどどっと子どもの友だちが訪れて遊ぶ、というよりは暴れるという表現が相応しい大騒ぎをする横で、ツタヤで借りたかつてTVドラマ『隣の神様』を静かに観て過ごす。 向田邦子原作、久世光彦演出の名品である。このふたりとももう幽明境を異にしてしまったんだ。
by mewspap
| 2006-11-23 16:25
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