■シネマ◆
■の■■■ ■つぶ■■ ◆ その年の瀬雑記(前) ■■■やき ■ ■ ◆ 2004-12-31 やっほ。 いよいよ2004年の師走も大詰めである(なんか変な言い方だな)。 しんしんと暮れゆく年の瀬は、しんしんと降り積もる雪に覆われて、我が寓居も雪に包まれている。 今年の師走は忙しく、映画を観るひまもなかった。 ということで、2004年最後の「シネつぶ」は、映画抜きのあたふた身辺雑記でごめんね。 しかし、どんなにあたふたしようとも、おせち料理の用意だけはする。 わたくしが担当するのは、数の子とごまめとお雑煮だけなのだが。 だって好きなんだもん。 以前、史学・地理学専修のF田先生が文学部HPで「お雑煮文化論」と題したコラムを書いておられたが、我が家のお雑煮はいたってシンプルな醤油だてのおすましである。 昆布と鰹節とその他混合節で気合いの入ったお出汁は用意するが、あとは薄口醤油とお酒で味付けし、大根、人参、椎茸、鶏肉を入れ、三つ葉を散らして柚子を添えるだけ。 関東出身なのでおもちは四角餅が好みなのだが、こちらでいただくのは丸餅ばかりである。 四角かろうと丸かろうと餅は餅なので気にしない。 それよりも酉年なのにいきなり鶏の殺生をしてしまっていいのだろうか。 いいのである。おいしいから。 あと残った仕事は年越しそばの準備である。 こちらも気合いを入れて出汁をとり、でかい海老の天ぷらを揚げてトッピングとするのが倣い。 今年は何年かぶりに部屋の大掃除までしてしまった。 というかほとんど部屋の改造で、まだその過程なんですね。部屋のなかぐちゃぐちゃである。 なんやかやとあわただしいなか、書斎とリビングに本棚を作り付けたためです。 いかにも「昔気質の職人」という感じで口べたの建具屋さんに来てもらって、我が家の書斎とリビングに作り付けの本棚を設置してもらいました。 その片づけがまだ終わらない。このまま年越しとなりそうである。 でも天井までいたる作り付けの本棚って、年来のあこがれだったんですよね。 なんか「学者」とか「読書家」みたいじゃない。 ◇━━━━━━━━━━━━━━ 「化粧の文化史」公開授業無事終了 ━━━━━━━━━━━━━━━ 「化粧文化の新しい広がり――福祉場面における化粧の効能~タミー木村先生によるデモンストレーション・トーク~」と題した総合講座「日本学Ⅰ:化粧の文化史」の公開授業が無事終了。 吹田ケーブルテレビも取材に来ていました。 メイクアップ・アーティストのタミー先生は、高齢者施設で入居者に化粧を施す福祉活動にも従事されている。 その写真やヴィデオ映像を見せてもらったのだが、化粧前と化粧後では本当におばあちゃんたちの表情ががらりと変わる。 無表情だった方がにっこり笑い、無口の方が滔々としゃべり出し、歌を歌い出す人もいる。 不思議な魔法を見ているようである。 トミー先生はとってもいい方でした。 内側から「明るいエネルギー」をぴかぴかと放射している感じで、そばでお話をしているだけで元気をもらえるような人である。 おそらく福祉現場では、化粧をすることと同時に、このような人がそばにいることそのものが「エンパワーメント」効果をもたらすのでしょう。 化粧のデモンストレーションでは、受講生のなかから50代の現役の学生M原さんにメイクモデルになっていただいた。 当初、実演でモデルになっていただけませんかと声をかけたとき、「高齢者への化粧の効果」という趣旨なので失礼に当たるのではないかとちょっと気が引けたのであるが、たいへん「のりのり」の方で大いに楽しんでおられた。 喜んでもらえてわたくしとしても胸をなで下ろす。 実は二人目のメイクモデルには文学部事務室のU野さんにお願いしていたのだが、授業手順の都合でおひとりしか実演に時間を充てられず残念。 一部でよく知られているように、U野さんもたいへん「のりのり」系のお方で、「きれーにしてくれるんでしょ? あら、楽しみやわ!」と期待してくださっていたのに申し訳ない。 文学部執行部の先生も顔を出してくださった。 文学部長を初め、メイクモデルが現役学生であることにびっくりされていたN澤先生、かぶりつきでご覧になっていたO村先生、どうもありがとうございました。 公開授業なので学外の一般の方々にもご参加いただいたが、隅の方にちょこんと座ったちっちゃなおばあちゃんがいたのが嬉しかった。 ◇◇━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「長期週一回型」学校インターンシップ報告会 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 過日、学校インターンシップの事後報告会が開催されました。 今年度は延べにして約300名の学生が高校、中学校、小学校等に派遣されたが、冒頭の挨拶で文学部長は、この報告会は「経験の共有の場」であると話されていた。 インターンシップで様々な経験を積んだ学生は、「言語化」を通じて初めて自己の経験を我がものとし、かつ他の人と共有することができる。 そして言語化にはふたつ大事な点があると述べていた。 ひとつは「ストーリー化」であり、もうひとつは「キーワード抽出」である。 ストーリー化によってみずからの経験を自覚化し、かつ経験にキーワードないしポイントを付与することによって適切にレジスターされる、という趣旨であろう。 犀利で高度な論理性をもって鳴り、その浩瀚な「整理整頓された数多くの引き出し」からどんな問題にでもレファレンスをもっている部長ならではの「知的コツ」である。 なるほどいいことを教えてもらった。 ただ、「物語(ストーリー)」には、もうひとつ重要な役割があると思う。 キーワードでは括りきれず、ポイントというものでは表象し得ない何かが、「物語」の隅っこには潜むのではないか。 たぶんわれわれが飽きもせず物語を語る、物語を聴く(読む)ことの理由もそこにある。 キーワードやポイントの「提示」ではなく、「物語」を語ることの意義もそのあたりにありそうである。 さらに、言いよどむ、ためらう、口ごもる、適切に言語化し得ずキーワードを探しあぐねるというのも、黙過してはならない知的プロセスであると思う。 キーワードへと還元し得ないと感じる何かをその片隅に宿らせるため、その隙間に滑り込ませるため、あるいはこぼれ落ちそうな何かを危うくすくい上げるために、物語がある。 論理的で理路整然とクリアカットな物語ではなく、行きつ戻りつする「どもりがちの物語」からわれわれは語り始めるべきであろう。 整序された物語はその語る意味内容は伝わりやすいだろうが、つねにそこには何か取りこぼしがあるような、言い足りない何かがあるように感じるものでもある。 報告された6人の学生さんたちはみな堂々たるものであった(わたくしには真似できない)。 みなさん異口同音に「教えることのむずかしさ」について実感こもったお話をされた。 教えることが大好きで、教員たるを天職と考えている先生は世に多いが、わたくしには想像の外である。 どうもわたくしは「教えること」も「教えられる」ことも嫌いなようである(子どものときっから)。 「教育」というものにも違和を感じる。 それはもう小学校のころからなので、致し方ない。 学校という空間はそれこそ小学校のころから好きだったのだけれど、そこに「教育」というものが入り込むとどうも馴染めない(それじゃ学校にならんか)。 偏屈な奴ですまないと思う。 かくのごとく"teaching"ということには違和感を覚えるのだが、"learning"というものの価値を認むるに人後に落ちないつもりである。 そしてわたくしはheuristic(発見的認識)という言葉が好きである。 "learning"の本旨はそこにある。 それは、「教える/教えられる」対象としての知識がそこにあって、「教える者」と「教えられる者」のあいだに授受がおこなわれる、というのとは異なる。 教師が語る言葉から、彼が教えていないことを学ぶ、というのが理想である。 なるほど雲を掴むような理想なので、わたくしの話は自然と回りくどく、およそ「解答」のない話し方になる。 そしてしばしば破綻する(涙)。 過剰に語り、そして言い足りないと思うのが常だ。 わたくしが学校インターンシップの研修風景を見学に行った学生もひとり報告のため登壇したが、「教える/教えられる」関係のコミュニケーションについて触れていた。 彼女が言っていたように、このコミュニケーションは双方向性である。 「教える側」と「教えられる側」の立場は与件ではないし、確定的に定まったリジッドなものでもない。 わたくしが子どものときから苦手なのは、おそらく「教える者」→「教える内容」→「教えられる者」というコミュニケーション図式なのだと思う。 「教える/教えられる」関係性がリジッドなものでないのはもちろん、「教える内容」も所与のものではなくて、コミュニケーションの隘路からheuristicに立ち上がってくるというのがいいと思うんだけどね。 文学部のホームページに今回掲載されたコラムで、教育学専修のK崎先生が「私の専門は心理学である。けれども、『心のケア』という言葉には、どうしてもなじめない。なにかしら違和感を感じてしまう自分がいる」と書いておられて、門外漢ながらわたくしもたいへん共感を覚えた。 K崎先生は「心のケア」というものについて、こんな風に述べている。 「心のケア」という言葉を使うとき、「それが必要」か「必要でない」かで、人を見てはいないだろうか。あるいは、「私はケアする人」「あなたはケアされる人」という関係になりはしないか。そこには、どうしても線引きの発想が入り込んでくる。「虐待」という言葉も同様だ。人が「虐待」と口にするとき、暗黙のうちに、「私は虐待をしない人」になっている。言葉の影響力は大きい。 「心のケアをする人」「心のケアをされる人」「心のケア内容」の3点構図からなるコミュニケーションというのは、上の「教える者」「教えられる者」「教える内容」の関係性と類比的に思える。 関係ないよと怒られるかもしれないけど。 いずれにしても、われわれはみな一様に、小学校以来「教育」現場で長らく過ごしてきた。 大学4年を終えたら16年間である。 異様なほど長い。 学生さんたちにとっては、「人生のほとんど」である(そのまま大学に残ったわたくしにいたってはどうなるのか)。 しかしながら、それだけ長く「教育」空間に浸ってきたにもかかわらず、われわれは「教育」というものについてあまり知らない。 いや、あまりに「自然化」してしまっているのだろう。 研修に参加した学生さんたちは、「現場を直接体験する」ことと同時に、「教育」というものを対象化して見る視座を得たのではないだろうか。 留学生への日本語教育補助にあたった研修生が、報告のなかで異文化理解の機会を持つことができたと言っていた。 教育現場というのはわれわれが「一番よく知っている異世界」である。 そのような意味で、学校インターンシップは「自文化理解」の場でもあるのだろう。 研修生たちの報告後、フロアからある校長先生からひとつの異論が出された。 インターンシップに参加されたのは、いたって真摯で真面目な学生さんたちばかりである。 しかし、「教育」への情熱を秘めた「教員志望」の学生が、将来教壇に立つための準備や、あるいは「教育実習」の予行演習のために学校インターンシップに参加するというのは少し趣旨が違うのではないか、というものであった。 研修生たちが異口同音に語るきわめて良心的な「物語」の文法、そしてその拠って来たる心性に、一抹の疑念を抱いておられているとわたくしは解釈した(違っているかもしれないけど)。 傾聴に値する意見だと思う。 また、この校長先生は「教員志望」の学生こそ企業に就職すべきであり、企業に就職しようと思っている学生こそ教員になってもらいたいとも述べておられた。 かつて大江健三郎が、作家志望の若者には、まず就職して社会を見て、30歳を過ぎたあたりから小説を書き始めた方がいいとアドバイスすると書いていた。 自身は大学在学中に作家デビューし、卒業と同時に職業作家となってしまったために、自分には何かが欠けているとつねづね後悔の念を抱いてきたと。 インターンシップに参加する学生にこのような視座を求めるのは酷だと思うけれど、「教育」をめぐって個人的な違和感を拭いきれぬまま馬齢を重ねてきたわたくしとしては(そして「教育」が苦手なのに大学院を出てすぐ「教える側」になってしまった大馬鹿者として)、かの校長先生が開陳していたご意見には思わずうんうんと頷いてしまった。 うんうん(首肯)。 (以下その年の瀬雑記後半に続く)
by mewspap
| 2006-01-07 01:50
| シネつぶアーカイヴ
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