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Eri「現代のアメリカ映画における家族像――親子の観点から――」

目次
序論
第一章 アメリカにおける家族像の変遷
 第一節 1950年代 『エデンの東』
 第二節 1960年代 『俺たちに明日はない』
 第三節 1970年代 『クレイマー・クレイマー』
 第四節 1980年代 『フィールドオブドリームス』
 第五節 1990年代以降 『リバーランズスルーイット』
第二章 現代のアメリカ映画『アメリカン・ビューティー』
 第一節 バーンハム家における親子
 第二節 フィッツ家における親子
 第三節 二つの家庭
第三章 現代のアメリカ映画『ペイ・フォワード』
 第一節 マッキーニ家における親子
 第二節 シモネット家における親子
結論

参考文献

序論
 映画は言葉だけではなく、視覚や聴覚を通して人に感動を与え、人々を楽しませ、考え方や生き方までに影響を与える。
 アメリカ社会は、日本に比べて映画産業が盛んである。そのアメリカで数多く製作される映画の中で、親子や家族を取り上げる作品は、数多い。なぜアメリカ映画に、親子や家族が数多く描かれているのか。人々にとって最も身近であり、影響力の大きいテーマなだけに興味の惹かれるものだ。また、家族をめぐる社会的状況が変化するのとともに家族のありかたも変化してきているが、その変化に耐えて不変の規範性もある。それはなぜなのだろうか。
 そこで、本論文では第二次世界大戦を契機として、アメリカの映画のなかで家族、特に親子がどのように表象されてきたのかをたどり、家族のイメージがいかに構築されてきたのかを考えてみたい。
 第一章では、まず、現代のアメリカの家族になるまでの過程を探るため、1950年代から1990年代までを年代ごとに時代背景を見ていく。そして、映画作品を取り上げながらアメリカにおける家族像の変遷について論じる。
 第二章では、現代のアメリカ社会において問題ある家族が描かれている『アメリカン・ビューティー』(American Beauty, 2000)、第三章では、『ペイ・フォワード』(Pay It Forward, 2000)において、アメリカの家族がどのような現代の問題を抱え、どのような家族像を表象しているのかについて述べていきたい。

結論
 映画は芸術であると同時に、現代を映す鏡である。映画制作には莫大なお金と多くの人の生活を賭けて作られるため、現代を色濃く反映した売れる作品が作られている。そのため、映画はその国や社会の実情と近い将来の姿を映し出していることが多い。
 本論文ではアメリカの家族像を、親子をキーワードとして映画を通して見てきたが、ここ60年をさかのぼるだけでも家族の形や価値観が変化してきたことが分かる。そして、その変化は社会の変化に大きく関わっていたことは疑う余地もない。第二次世界大戦後から見られる「理想の家族」の姿は、メディアをとおして作られてきた。初めは、シンプルな良き両親と健康で元気な子どもという父親を中心とした家族であった。ところが、1950、1960、1970年と進むにつれて家族が核家族となり、片親の家族となる数も増えてくる。家族の働くスタイルを見ても1960、1970年ごろから父親が働くだけでは生活が豊かに暮らせなくなり、共稼ぎの家族が増えてくる。
 『エデンの東』では、母親は悪いイメージとして登場し、その後の映画でもあまり姿を表さなかったが、『クレイマー・クレイマー』を経て、登場時間自体も増えて変化している。母親の存在が次第に大きくなってきていることが分かる。
 『エデンの東』から現代までの映画の変化をたどってみても、1950年代の大きな事件はない家族の人間ドラマを描いた話から、『ペイ・フォワード』という世界を変えるための方法を考え、行動するという大きなテーマのある中に登場人物のエピソードとして家族の姿が表され、映画の内容も複雑になっていく。
 映画の中になぜ家族を扱う作品が多いのか。それは、人々が何をするにも生まれて育つ始まりが家族という環境にあり、最も生活に密着しているところからではないかと考える。誰もが持っている家族であるが、過去の家族の姿を見ながら実は自分の家族について考え、知らず知らずのうちにそのあり方を自分に問いかけているからかもしれない。
 また、問題が急増している現代のアメリカにおいて、人々の家族問題や親子関係に対する意識が少し変わってきていることも分かる。つまり、『ペイ・フォワード』に見られるように、幼いときに受けた家族間の心や体の傷は、誰もが多かれ少なかれ持っていて特別ではない。その問題に対して逃げだしたり関心を持ったりしなければ変わらず、立ち向かい行動を起せば変わることができると暗示している。
 時代によって社会状況や家族の形は違っても、家族の一人一人が自分の殻を脱ぎ捨て、本当の自分をさらけ出して互いに向き合うことが変化の激しいこれからの時代を生きていく私たちにとって必要なことでないだろうか。


(1)長坂寿久著『映画、見てますか スクリーンから読む90年代のアメリカ』(文藝春秋 1990)p.46
(2)同上pp.46-47
(3)伊藤淑子著『家族の幻影 アメリカ映画・文芸作品に見られる家族論』(大正大学出版会2004)p.63
(4)井上眞理子編『現代家族のアジェンダ 親子関係を考える』(世界思想社 2004)pp.142-143
(5)同上pp.143-144
(6)長坂『映画、見てますか スクリーンから読む90年代のアメリカ』p.53
(7)《URL: http://www.awesomefilm.com/script/kramerVsKramer.txt》スクリプトより
(8)棚瀬一代著『クレーマー、クレーマー以後』(筑摩書房1989)p.4
(9)《URL: http://www.awesomefilm.com/script/kramerVsKramer.txt》スクリプトより
(10)棚瀬『クレーマー、クレーマー以後』pp.6-7
(11)井上『現代家族のアジェンダ 親子関係を考える』p.144
(12)《URL: http://scifiscripts.name2host.com/msol/A_B.html》スクリプトより
(13)同上
(14)同上
(15)伊藤『家族の幻影 アメリカ映画・文芸作品に見られる家族論』pp.145-146
(16)《URL: http://scifiscripts.name2host.com/msol/A_B.html》スクリプトより
(17)『ペイ・フォワード』(ワーナー・ホーム・ビデオ 2000)より

図版出典
(1)《URL: http://carolitacafe.blog9.fc2.com/blog-entry-76.html》より
(2)《URL: http://www.uipjapan.com/americanbeauty/main.htm》より

参考文献
・生命保険文化センター編、伊東光晴監修『21世紀の家族像』(日本放送出版協会1986) 
・井上眞理子編『現代家族のアジェンダー親子関係を考えるー』(世界思想社2004)
・伊藤淑子著『家族の幻影―アメリカ映画・文芸作品に見られる家族論―』(大正大学出版会2004)
・総合研究開発機構編『現代アメリカの家族問題』(出光書店1984)
・棚瀬一代著『クレーマー、クレーマー以後』(筑摩書房1989)
・長坂寿久著『映画、見てますかースクリーンから読む90年代のアメリカー』(文藝春秋 1990)
・増田光吉著『アメリカの家族・日本の家族』(日本放送出版協会 1969)
・米倉明著『アメリカの家族』(有斐閣 1982)
・井上輝子、木村栄、西山千恵子他著『ビデオで女性学』(有斐閣 1999)
・《URL: http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/cinema/america.html》
・《URL: http://payitforward.warnerbros.com/Pay_It_Forward/》
・《URL:http://ter.air0day.com/?script=payitforward》
by mewspap | 2006-02-24 15:37 | 2005年度卒論


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