「読者便り」”One Reader Writes”――谷口陸男訳
主な登場人物 彼女:One Reader 舞台:アメリカ、ヴァージニア州ロオノーク(彼女の住んでいる場所) 荒筋:「彼女」は、ある新聞の読者であり、その新聞に顔写真を載せている「先生」に宛てて身の上相談の手紙を書く。 その内容は、彼女の夫――アメリカ国軍人で、中国の上海に三年間駐屯させられていた――が帰国し、アーカンソー州へレナにある夫の実家に帰ったのだが、「彼女」がそこに行くと、夫が梅毒にかかっていた、これからどうすれば良いか、というものである。 「彼女」は、夫が梅毒にかかった経緯はどうでもよく、ただただ梅毒を恐れている。 感想:深刻な状態に陥り、必死に何かにすがろうとしている「彼女」の姿がリアル。「彼女」が一人称で錯乱気味の思考を延々繰り返して到る終わりが、そのリアルさの真髄。狂躁的でもあり、滑稽な悲劇でもある掌編作品。 「一日の期待」”A Day’s Wait”――谷口陸男訳 主な登場人物 わたし:シャッツの父親 シャッツ:「わたし」の息子。九歳 舞台:アメリカ(場所の詳細は不明) 荒筋:ある日シャッツは病気になり、「わたし」は医者を呼ぶ。医者は熱が102度(華氏か?)あり、インフルエンザだ、と言う。医者がそう言うのを聞いて、シャッツの様子がおかしくなる。 シャッツに薬を飲ませて、「わたし」はよく晴れて寒い外へ散歩に出る。 家に帰ると、シャッツが自分の部屋に誰も入れないように騒いでいる、と家のものが言うのを「わたし」は聞く。シャッツの熱を測ると102度十分の四ある。シャッツひどく思いつめた目をしている。シャッツは「わたし」に、「パパはぼくがいつ死にそうになると思う?」と訊ねてくる。わたしが、なぜそんなことを考えているのかを訊くと、シャッツは以前フランスの学校の友人が熱が44度出たら誰でも死ぬ、と言うのを聞いていて、自分は102度あるのだから死ぬ、と思っていたのである。 シャッツは朝の九時から、自分が死ぬのを待ちつづけていたのだ。 「わたし」がその誤解を解いてやると、シャッツの目つきは次第にきつさをなくしていき、そして翌日からはすっかりしまりがなくなり、たいして重要でない些細なことにもすぐに泣くようになった。 感想:非常に深く考えさせられた作品。論を展開させるとエンドレスになりそう。 ヘミングウェイの死生観を探る上でも重要な作品ではないか、という気がする。なにより、作品自体のパワーが凄まじい。たったの7ページぐらいの作品であるにもかかわらず。 なんと言うか、佳作のフルアルバムCDよりも、傑作の一曲を聴く方が得るものが多い、といった感覚である。
by mewspap
| 2005-08-12 02:51
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