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研究ノート5(shin)

『勝者には何もやるな』 WINNER TAKE NOTHING――谷口陸男訳
序文
他のあらゆる争いや戦いと違って前提条件となるのは、勝者に何ものをも与えぬこと――その者にくつろぎもよろこびも、また栄光の思いをも与えず、さらに、断然足る勝利を収めた場合も、勝者の内心にいかなる報償をも存在せしめないこと――である。

アーチボルド・マクリーシュに


「清潔な明るい店」”A Clean,Well-Lighted Place”――大久保康雄訳

主な登場人物
年下の給仕:眠たくて早くカフェから家に帰りたがっている
年上の給仕:帰りを急いでいない。カフェに居座る老人に同情的
老人:カフェに居座りながらブランデーをながながと飲んでいる。耳が聞こえない

舞台 スペイン。清潔な照明の明るいカフェ

荒筋: 夜もふけてカフェには老人以外の客がいない。老人は夜遅くまでカフェに座っているのが好きで、ブランデーを飲みつづけている。年上の給仕はもう一人の給仕に、老人が先週自殺をしようとしたことを教える。老人は金持ちだが、自棄になったのだ。老人は更にブランデーをお代わりし、年下の給仕はうんざりする。年下の給仕は、女房もいるのだから早く帰りたい、と言う。年上の給仕は老人に同情的なので年下の給仕をなだめる。
老人がもう一度お代わりをしようとしたので、年下の給仕は我慢できなくなりそれを断る。
早く帰ろうとする年下の給仕に、年上の給仕は、俺には若さも自信も無く仕事しかない、夜遅くまでカフェに粘っていたい型の人間なんだ、と言う。
年上の給仕は年下の給仕と別れて、自分が抱えている虚無のことに思いをはせながら、しまいにはしゃれのめす。そしてバーに行って「無(ナダ)」を注文する。結局はコーヒーを飲んで、彼は自分が不眠症にかかっているだけなのだ、と思うことにする。


感想 都会にいる人間に共通するある感覚を見事に表現している作品であると思う。まえから好きな作品。後半部に出てくるナダの解釈は、まったくヘミングウェイのドライな思想を表しているとしか思えない。


「世の光」”The Light of the World” ――大久保康雄訳

主な登場人物
ぼく:無頼な青年
トム:ぼくの友人。これまた無頼
バーテンダー:いけ好かない男
男:駅の待合室にいた
コック:文句垂れで、手にレモンジュースをぬり、そのせいで手が真っ白である
アリス:とても声の良い、大柄な売春婦
髪を染めた女:自分は亡くなったスティ―ヴ・ケッチェル(有名ボクサー)の恋人だったと主張する。

舞台 アメリカ(詳細は不明)

荒筋: 「ぼく」とトムはある町に流れて来る。そこで入ったバーでは、バーテンダーが二人を与太者のようにあつかう。そこで「ぼく」が五十セントをカウンターに置くと、たちまち態度を変える。トムはそれに腹を立て、おつまみの豚足を床に吐き出す。バーテンダーは二人に出て行けと言うが、「ぼく」は「出るといったのは、おれだぜ」と捨て台詞をはいて、トムと外へ出る。
町の駅にむかうことにした二人。駅の待合室に入ると、そこには汽車を待つ売春婦が五人と、白人が六人、インディアンが四人いる。ある男が「ぼく」に、コックに文句をつけたことがあるか、と訊き、そこにいたやたらと手のきれいなコックのことをネタにする。それを聞きながらアリスが笑う。アリスたちは250ポンド(百キロ)を楽に越える体の大きさである。コックが級に「ぼく」に話しかけてくる。年はいくつだ、という質問にトムは「おれは96で、こいつは69さ」と答える。腹を立てるコックに「ぼく」は「おれたちは十七と十九だよ」と言ってやる。それからアリスが自分の名前を教え、トムが他の売春婦にも名前を尋ねる。自然と話しの流れがキャディラック(地名)のことになり、そこ出身のスティ―ヴ・ケッチェルの名前が出る。すると突然、髪を染めた女が、自分はその恋人だったという話しをぶちはじめる。皆がその話しに感動するが、アリスは、自分こそがそうだった、と言い、女と言い合いになる。アリスは泣きながら言い合いをしていたが、そのうち泣くのを止めて、言い合うのも止める。そして「ぼく」らのほうへ素晴らしい笑顔を向ける。「ぼく」がアリスの笑顔に見とれていることを知って、トムは「さあ、出かけよう」と言う。どこへ行くのか、と言うコックに、トムが「おまえと反対のほうさ」と言う。


感想  これも素晴らしい作品で、アリスの美しさがよく表現されている。特に、髪を染めた女との言い合いを止める降りは最高。自分は真実を語っているのだ、という者の誇りが伝わる。それがこの作品の「世の光」なのではないだろうか。アリスの笑顔を見たくなる。



iikagen kigakuruu . *kono hyoujikeisikiha [friction]no kashika-donopakuridesu
by mewspap | 2005-07-15 00:11


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