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研究ノート⑥(みきてぃ)

                                   序論                        
 
 2004年に公開された『シークレット・ウィンドウ』(Secret Window)は「分身テーマ」を主題としている。分身を描いた映画は数多くあるが、『シークレット・ウィンドウ』は、鏡、そして独特のカメラワークを用いた分身の描き方が特徴的である。
 主人公モート・レイニー(Mort Rainey)は郊外に一人で住んでいる。彼は髪の毛もセットせず、ぼろぼろのガウンを着ており、食事もろくにとっていない。このような荒んだ生活をしているのは、彼の妻エイミー(Amy)の不倫が発覚したことに起因する。すでに離婚協議を終えたにも関わらず、モートにはまだ未練があるのだ。そんな彼の最大の特徴はひたすら眠ることである。なぜなら彼には分身が存在し、モートが眠っている間に分身が活動するからである。
 エイミーの裏切りにより、モートは愛と憎しみの葛藤に苦しめられる。その葛藤が限界を超えたとき、彼の分身ジョン・シューター(John Shooter)を呼び込むこととなった。モートはエイミーを愛し、シューターは彼女を憎むことで、モートは葛藤から逃れた。そしてモートの分身シューターは、モートが眠っている間に活動し、放火や殺人といった罪を犯していくのである。そのように分身シューターを呼び込んでしまったのは、モートの特徴である、過剰な想像力を有していることや内的独白が多く、声だけの別人格が存在していることが深く関わっていると言える。
 シューターがモートであることは、カメラワークや鏡のモチーフにより浮き彫りにされる。鏡には自分自身が映っているのに、それをシューターだと思い込み、鏡を火かき棒で殴ってしまうシーンはその象徴である。
 映画のラストでは、モートはシューターに体を乗っ取られ、エイミーに対して憎しみしか抱いていないシューターは彼女を殺す。その目的を果たしてから、モートは変身する。髪をきれいにセットし、明るい色の服を着るようになる。またモートは、若い女性が登場する度に動揺していたのだが、ラストでは彼の方から積極的に若い女性に話しかけ、食事にまで誘うほどの変わりようである。
 映画の中のシューターは、モートが作り出した人物であり、モート以外には見えず、実在していない。頭の中で作り上げた架空の分身シューターは結局モートの体を乗っ取ってしまう。一方、原作『秘密の窓、秘密の庭』(Secret Window, Secret Garden)では、シューターの描かれ方が異なっている。まず、シューターはモート以外にも目撃されているのである。またモートがエイミーを殺そうとしていたときに、モートは銃で撃たれ、死んでしまう。しかし彼が死んだ後でもシューターがメモを残す場面があり、シューターがモートとは離れ、単独で生きていられるとされている。
 さらに分身シューターが現れた原因も異なる。映画では妻エイミーの不倫が主な原因として描かれている。原作ではモートが過去に小説を盗作したことが詳しく書かれている。彼は盗作したことを誰からも責められることなく、そればかりか売れっ子の作家になる。しかしモートが抱く罪悪感が消えることはなく、売れっ子だがデビューのきっかけは盗作という事実にずっと苦しめられていた。そんな中愛するエイミーの不倫が発覚し、モートは壊れてしまうのである。
 第一章では、主人公モートの人物像と、映画のラストで描かれている彼の変身について考察する。
 第二章では、分身の描かれ方に焦点を当て、モートの睡眠時間の多さや声だけだった別人格が実際に姿を現すこと、また分身を浮き彫りにする鏡のモチーフやカメラワークという四つの観点から論じる。
 第三章では、映画では分身シューターはモートであるが、原作ではシューターはモートではないという分身の描かれ方の違いや、分身を呼び込んだ原因が異なっていることについて考察する。
by mewspap | 2008-12-02 06:32 | 2008年度ゼミ


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