■シネマ◆
■の■■■ ■つぶ■■ ◆ その44(前) ■■■やき ■ ■ ◆ 2004-12-01 やっほ。 文学部総合講座「日本学Ⅰ:化粧の文化史」では、12月16日(木)に公開講座のかたちでデモンストレーション・トークをおこないます。 お題は「化粧文化の新しい広がり――福祉場面における化粧の効能」。 メイクアップ・アーティストとしてご活躍のタミー木村さんをゲストにお招きし、年長の女性をメイクモデルに実演をしていただきます。 化粧というのはただひたすら美観の「お化粧」のことだと思っているひと、それは短見というものでしょう。 今日では化粧による心理学的効果が臨床現場でも明らかとなり、福祉や介護にも有効に使われつつあるんですね。 さて、本日は先だって予告した「ただしいきつねうどん」の作り方を伝授いたしましょう。 ◇━━━━━━━━━━━━ ただしいきつねうどんの作り方 ━━━━━━━━━━━━━ 寒くなってくると、休日の昼ごはんは麺類にかぎります。 作るのも食べるのも早いし。 洗い物は楽だし。 おいしいし。 学祭のとき出店で買い求めたワカメうどんと味噌煮込みうどんに、アキモトせんせとしては眉間のしわが深くなってしまうような哀しい思いをしたので(@「シネつぶ」その42)、これはぜひともただしいうどんの作り方を巷間流布せねばならないと思い定めたのであった。 しかし、学生の作るうどんのみならず、プロの料理研究家が書いていることにもけっこうトンデモなものがある。 手許のある料理本には、「関東風きつねうどん」と「関西風きつねうどん」の料理法の違いが書かれている。 それがすげえ馬鹿なの。 その本によれば、われわれに馴染みのいわゆるきつねうどんは「関東風」だそうである。 「関西風」なるものは、油揚げを刻んでうどん出汁に投入し、ネギと一緒に2、3分煮てそのままうどんにかけるんですと。 それって関西では「きざみうどん」って言うんですよ、お馬鹿さん。 この料理研究家はおそらく関西の世情に疎い関東人で、フィールドワークもせずに思い込みと風聞に頼って書を著してしまったのであろう。 かくのごとく、東京という「中心性」を帯びたまなざしの誤読から、「奇怪なる異世界の関西」神話は再生産されてゆく。 このような由々しき事態に抗すべく、わたくしが一肌脱いで簡単かつ「ただしい」きつねうどん(関西風)の作り方を伝授してしんぜよう。 1.ただしい出汁の引き方りかた 大鍋にたっぷりの水を入れて昆布(日高、羅臼、利尻いずれでもできれば上物を使いたい)を投入し、中火でゆっくり沸騰直前まで煮出す(17分くらい)。 沸騰すると昆布のヌメリが出て扱いにくくなるので、沸騰直前に上げる。 「業務用だし」(サバ節、ムロアジ節、イワシ煮干しの混合節)をふたつかみ分くらい投入する。 これはどこのスーパーにも売っている。暴力的なまでの旨味を引き出せるお勧め品である。 大量に発生するアクを丁寧にすくいながら3分ほど出汁を引いて、火を止めて1カップ分くらいの水を差して温度を若干下げてから、おもむろにカツオ節(わたくしのご贔屓にしているのは「鹿児島産・味立て上手」というもの)をわさわさと入れて(これまたふたつかみ分くらい)再度火をつける。 このあとはあまりいじってはいけない。そおっと扱うべし。 カツオ節からさらに出る若干のアクを取ったら、再沸騰する前に火を止める。 カツオ節を入れたらもうあっと言う間である。およそ30秒くらい。「煮出す」ような扱いはいけない。 キッチンペーパーを敷いたザルで漉したら「一番出汁」の完成。 さっきの半分くらいの水を鍋に入れて、二番出汁をとりましょう(お味噌汁用にぴったり)。 さらに、この一番出汁を用いて、さっき使った昆布を刻み、水で戻した干し椎茸と一緒に昆布の自家製佃煮を作るのもよい(面倒なら昆布は捨てちゃう)。 ところでみなさんご存じであろうか。 「旨味」というのは要するにアミノ酸のなせるわざであり、したがって「旨い」もの喰ってれば必須アミノ酸サプリメントなど服用に及ばないのである。 魚や肉類、それを加工したカツオ節(やら煮干しやらアンチョビーやら)やソーセージ(やらハムやらベーコンやらサラミやら)、すなわち「どうぶつ系」はイノシン酸の旨味である。 そして昆布はグルタミン酸。これを大正期の何とか博士が化学的に抽出したのが「味の素」なのだ。いわゆる「旨味調味料」ですね。 イノシン酸かグルタミン酸のいずれかでも十分においしいとされているが、それを足し算するとあれ不思議、1+1が2ではなく、人間の舌が感じる「旨味」は5にも6にもなるのだそうだ。 だから、「カツオ節+昆布」という出汁の引き方はたいへん「ただしい」のである。 ところで植物のなかで例外的にトマトはグルタミン酸が豊富である。 それを聞いて「あ、そうか」と膝を打って得心したきみ、そのとおりである。 日本人が「イタめし」好きなのには理由があるのだ。 トマトソースにベーコンでもハムでもソーセージでも、はたまた魚介類を投入すると、グルタミン酸+イノシン酸というただしい「和食の出汁」になる。 さらに魚にはドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれているので、おりこうさんになるっていうおまけ付き。 さらにアサリやホタテの貝柱にはコハク酸もたっぷりで、これまたうまひ。 旨いトマソの料理喰って身を震わすようなヨロコビを感じるのは、別にイタメシ通の証左なのではない。 我らが土着文化による刷り込みの発露なのである。 グルタミン酸+イノシン酸という数式は、中華料理でも使われている。 ご存じのように中華の基本はチキンストックであり、これはイノシン酸のカタマリですね。 ところが中華料理は昆布ともトマトとも原則的に無縁である。どうやって1+1=5(以上)というアクロバットを演ずるか。 巷の中華料理店では、大量の「旨味調味料」を使うのである。 そして化学的産物である純正グルタミン酸の大量摂取は、ときにより胸焼けや不快感をもたらす。 中華料理を馬鹿食いしたあとに訪れる、いわゆる「チャイニーズ・シック」はこのせいなのである。 近代に開発された「味の素」と、同じころに数多く日本に移り住んだ華僑との運命的な出会いは、人工的な「安くて旨い」庶民の味を生み出した。 これは料理史における秘話であり悲話である。 中華料理の本を見て悲しくなるのは、たとえレシピに鶏ガラで丁寧にチキンストックを作ってベースにするプロセスから記述されていても、あとの方にかならず「旨味調味料を少々加える」という手続きがあることだ。 2.ただしいきつねの作り方 お母さん狐とお父さん狐が結婚し……じゃなかった、薄揚げは熱湯をかけて(あるいはちょっと茹でて)油抜きして三角形に切り、鍋底に敷く(長方形の薄揚げ4枚分、きつね計16枚分くらい)。 ひたひたの一番出汁、砂糖(できたらザラメ)大さじ3、みりん大さじ2、薄口醤油大さじ1.5、濃い口醤油大さじ2を入れて、落としぶた(キッチンペーパーを使うとよい)をし、ふたをしてコトコトと20分くらい。 ときおりきつねくんたちを裏返すとともに、上下を移動させてみなさん平等かつフェアに出汁が煮含まれるようにしましょう。 出汁が少なくなってきたら完成。あんま~いきつねの出来上がり。おいしいよ。 3.ここが肝心プロ級うどん出汁の作り方 一人前につき一番出汁2カップに、薄口醤油大さじ2が基本。 砂糖(できたらザラメ)少々、みりん少々、酒少々でアルコールが飛んだら、薄口醤油を入れる。 醤油を入れたらあまり触らないこと(醤油を入れたあとせかせかとかき混ぜるとうどん出汁が「醤油臭くなる」と達人に教わった)。弱火で2分ほど煮いて、「泡飛ばし」(細かいアクが出るので丁寧にそっとすくい取る)をする。 最後に味見をして、味が足りない分は醤油でなく塩(単なるナトリウム99.9%の「あじ塩」など使わぬように、沖縄産の粗塩がお勧め)をひとつまみかそこら入れて確かめましょう。 「旨味」たっぷりのうどん出汁の出来上がり。 4.こうして「ただしい」きつねうどん(関西風)は完成を見た 奴ネギの小口切りか斜め切り(包丁はつねによく研いでおくように)を用意し、先ほどのきつねを2枚くらい載せたいところである。あとはワカメ、かまぼこ、ゆで卵、おぼろ昆布、天かす等お好みをトッピングする。 わたくしの好みはきつね、天かす、ワカメ、おぼろ昆布、大量のそぎ切りネギである。 特に、近くの阪急オ○シスの天ぷら屋の天かす(50円也)を必ずがさごそと入れる。 この天ぷら屋の天ぷらはあまりおいしくないので買う気になれないんだけれど、天かすだけは絶品である。いずれ店主にそうお伝えしてあげようと思う。きっと泣いて喜ばれるであろう。 あとはお好みで七味か一味(最近では山椒もお気に入りである)を用意する。 こうして「ただしい」きつねうどん(関西風)は完成を見たのである。 あ、うどん茹でるの忘れた。(アイゴー) ◆『シークレット・ウインドウ』SECRET WINDOW 2004年アメリカ 原作:スティーヴン・キング 監督/脚本:デイヴィッド・コープ 出演:ジョニー・デップ、ジョン・タトゥーロ、マリア・ベロ、ティモシー・ハットン、チャールズ・S・ダットン 例によってウィークデイのオフの日の午前中に、近場のシネコンで観る。入りは総勢7人。 別に入りの悪そうな映画を選択的に観に行っているわけではないが、毎度のことながらちょっと心配になる(シネコンの経営がね)。 『シャイニング』『ミザリー』に続くスティーヴン・キングの「作家もの」シリーズ最新作である。 そういえば『スタンド・バイ・ミー』の主人公=語り手も長じて作家になり、少年時代を回想して物語る形式だった。 『シークレット・ウインドウ』は「一人称映画」であり、そのことがこの映画の秘密と深く関係する。 鍵となるのはジョニー・デップ演ずる作家モート・レイニーのクロースアップ、内的独白、独り言、そして異様な睡魔と爆睡である。 ジョーニー・デップが髪の毛ぼさぼさで、ぼろぼろのガウンを羽織り、ジャンクばっか喰っている実に不潔感漂うおんぼろ作家を怪演している。 その彼のクロースアップがやたらと多い。 ひとり郊外の別荘で無聊をかこち、小説の執筆は遅々として進まず、孤絶感と閉塞感(そして不潔感)に囚われた「彼の世界」に、クロースアップのカメラは否が応もなく観客を引きづり込む。 付けては外す眼鏡が鬱陶しい。そういう体感を覚えさせる「近さ」である。 デイヴィッド・フィンチャー監督の『パニック・ルーム』(@「シネつぶ」その43)でも不可思議なカメラワークが見られたが、その脚本を書いていたデイヴィッド・コープ監督である。 プロローグのあとの導入では、『パニック・ルーム』を思い出させる「覗き見」的なカメラワークで閉塞的なクロースアップの世界に導く。 クレーンカメラを使ったというだけでは説明できない動きで、戸外から別荘を映すショットから二階の窓をくぐり抜け、寝室を通って階段の踊り場を利用した書斎に入り、モートが執筆途中の作品を机上のコンピュータ画面で瞥見し、ぐるっと巡って階段を下りてゆき、一階のリビング・ルームのソファに眠るジョニー・デップのクロースアップにいたる。 プロローグでも運転席のモートの無表情な顔のクロースアップで、彼の内的独白を聞かされる。 「やめておけ。あそこに戻っては行けない。そのまま帰るんだ」 内的葛藤に満ちた「自分に言い聞かせる」インターナル・モノローグに対し、身体は相反する行動に出る。 あのときモートは「分裂」するのであろう。 独り言も多く、ほとんど「目の見えない」飼い犬の老犬に語りかけるパターンが繰り返される。 そして異様によく眠る。意識を失うかのように眠りこけ、そしてはっと目覚めるパターンを反復する。 さらに極めつけは、謎のストレンジャー、ジョン・シューターが登場したあと、彼がドアの陰に潜んでいると思い込み、火かき棒で殴りかかるシーンである。それが「鏡」にすぎず、モートは自分の「影」を叩き割ることになる。 モートが鏡を割ったとき、わたくしは金田一耕助探偵の邪魔ばっかするお馬鹿警部の加藤武のごとく、「よし、わかった!」と思わず手を打ち鳴らし、客席の他6名の方々の顰蹙を買った。 でも、やっぱりね。 どういうことかご説明しよう。 "My beautiful wife. My beautiful house."をモートは失う。 妻エイミーの浮気現場を目撃するプロローグは唐突に終わるが、そのときモートはすでに別世界に「いっちゃって」いるのである。 エイミーの浮気と「殺害」が彼の世界観の歯車を狂わせる。 モートはエイミーの浮気現場を押さえることを望み/浮気現場を目撃することを望まない。 エイミーの殺害を欲望し/欲望しない。 彼は「やめておけ」と殺意を抑圧し/ピストルの引き金を引いて殺意を成就する。 エイミーの殺害に復讐の達成感を覚え/エイミーの不在に深い喪失感を覚える。 内的葛藤を極限に押し進めたことによって分裂した自我は、別の「物語」に代償を求める。それが、彼がかつて書いた小説「シークレット・ウインドウ」のエンディングの改編を求めるストレンジャー、ジョン・シューターを召喚する。 現実を改編し得ないモートは、フィクションの改竄による辻褄合わせで葛藤を解消しようとするのである。 分裂した自我は分裂した欲望を牽引し続ける。 相棒の老犬を愛し/殺害する。 用心棒のケンを頼り/邪魔者として殺害する。 トムの証言によって分身シューターの存在が明かになることを求め/秘密の開示を恐れてトムを殺害する。 そして深く眠る。みずから認めることを拒絶する、しかし抑えがたい欲望を、すべてシューターに担わせるのである。そのあいだ「モート・レイニー」は「眠って」いる。 さて、こういう解釈はどうであろうか。 クライマックスにおける、別荘のバックヤードでのエイミーとその恋人テッドの殺害シーンは、「現実に起きたこと」ではない。 エイミーとテッドはすでにプロローグのモーテルで殺されているんだから。 あれはモートの「狂った頭のなか」の出来事であり、それによって自作の小説「シークレット・ウインドウ」の末尾改竄を迂回的に成し遂げるのである。 とんでもな感がなきにしもあらずだが、そういう解釈も「あり」であろう。 だってほら、最後にジョン・シューターではなく、ジョニー・デップ自身が演ずる「本物の分身」が登場しますよね。 あの場面は鏡の使い方が実に独特だったでしょ。モートが鏡に近づいていくと、そこには彼の正面の姿でなく背中が映し出される。 そこにエイミーが車で到着する音が聞こえ、カメラは「鏡のなか」に入ってゆき、部屋を横切って窓を通り抜け、車とエイミーに近づいていきます。 あれは「鏡のなか」の世界です。 カメラは「鏡に映じた」鏡像の室内を横切り、窓を抜け、外にいるエイミーに近づいていくんですよ。 だからあれは「現実」の出来事ではなく、「もうひとつの世界」で起きた物語なのである。 そしてエイミーとテッドを殺害して、かつて書いた短篇小説「シークレット・ウインドウ」の「結末の改訂」に成功しますね。 あれってまるっとモートが投影する「狂気の世界」なのである。 モートの分身が彼を追及して言うように、事実は6ヶ月前に浮気現場へ乗り込んだとき、すでにエイミーとテディを射殺していたんですね。 それ以後の物語はすべて(つまり映画の物語全部)、彼が構築した妄想世界である。 最後に老保安官がモートの別荘にやってきて、いずれ遺体を発見してお前を逮捕すると言いますが、彼が言及しているのは6ヶ月前にモーテルで殺害されたエイミーとテディの一件であって、斧で殺害された黒人ボディガードのケンや、ねじ回しをこめかみにぶっ刺されて殺されたトムのことでもない。 ケンもトムもモートが生み出した妄想世界の住人であって、ジョン・シューターと同じく実在しないのである。 こういう「すべては妄想でした」というのは、「夢オチ」ならぬ「幻視オチ」「狂気オチ」と呼ぶべきものであろう(『ビューティフル・マインド』もそうである)。 というのはまるでわたくしの思い込みにすぎず、もしかしたらまるっとアキモトせんせのでたらめな「幻覚」かもしれない。 DVDが出たらもう一度観て確かめてみよう。 アラバマの農夫ジョン・シューターは、東部の作家モート・レイニーとはもっとも異質な人物像である(おそらくニュー・イングランドのホラー作家キングがもっとも嫌いなアメリカ人類型だと思う)。 したがって分裂したモートのネガティヴな半身、負の側面を全面的に体現しているのでしょう。 もちろん最初からジョニー・デップ演ずる分身が「まんま」で登場しちゃったら、すぐ「あ、狂気と分身モチーフだ」とネタバレになっちゃうからもあるけれど。 それにしてもキングは言葉遊びが好きですね。 『シャイニング』の"REDRUM"もそうだし(これまた「鏡」に映った"MURDER"の鏡文字)。 今回は謎の人物シューター(Shooter)の"Shoot 'er"ときた。 ジョン・シューターの名前としては、分身らしく主人公のファースト・ネームを取って「モート・シューター」とすることもあり得たけれど、それじゃやっぱりすぐ分身だってわかってしまうかもしれない。 セカンド・ネームを取って「ジョン・レイニー」という名にしても事情は同じ。第一それだと「彼女を撃て」の言葉遊びができなくなる。 いっそのことふたりとも「ジョン」とするのも一興であろう。 「ジョン」ならばありふれたファースト・ネームで違和感がないので、主人公もモート・レイニーではなくジョン・レイニーにしてしまうのである。 主人公ジョン・レイニーと分身ジョン・シューター。 ジョン・レイニーの前に分身であるジョン・シューターが登場し、「ジョン、彼女を撃て」("John, Shoot 'er")という命令を発するわけである。 だめかな。 それとも、プロローグで「実はもう殺しちゃっている」のであるから、この際アイヴ・ショッターという分身名なんかもご提案したいところである。 Ive Shoter=I've shot 'erというわけ。 だめ? (以下その44後半に続く)
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