引き続き、ワシントン・アーヴィング(Washington Irving)著の『スケッチ・ブック』(Sketchbook)という短編集に綴られている「スリーピーホロウ」(Sleepy Hollow)という作品について。
今回は「スリーピーホロウ」の著者自身であるアーヴィングのプロフィールと、前回に取り上げたディードリッヒ・ニッカボッカー(Diedrich Knickerbocker)というアーヴィングのペンネームについて、2つの観点から考察しました。先ずアーヴィングのプロフィールを調べると、アーヴィングはジョージ・ワシントンやムハンマドといった数多くの人物の伝記を書き下ろしていたことから、伝記作家としての顔も持っていた事実を知りました。またアーヴィングはディードリッヒ・ニッカボッカー以外にも複数のペンネームを使用していたことが分かりました。(以下はWikipediaに掲載されているアーヴィングのプロフィールから作成した、アーヴィングが使用したペンネームの流れ 本名・ワシントン・アーヴィング アメリカ独立確定の年に生まれたアーヴィングは独立革命の英雄、合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンにちなんでワシントン・アーヴィングと名づけられた。 ↓ 最初のペンネーム ジョナサン・オールドスタイル(Jonathan Oldstyle) 代表作・『ジョナサン・オールドスタイルの手紙』(Letters of Jonathan Oldstyle) ↓ ディードリッヒ・ニッカボッカー 代表作・『ニューヨークの歴史』(A History of New-York) ↓ ジェフリー・クレイヨン(Geoffrey Crayon) 代表作・『スケッチ・ブック』 上述した、アーヴィングが伝記作家としての顔も持っていた事実と複数のペンネームを使用していた事実を知って、私は前回に論じた「ディードリッヒ・ニッカボッカー=過去のアーヴィング」という推測が誤っているのではないかと考えるようになりました。何故ならアーヴィングがオランダやドイツの民間伝承を読んだ(または聞いた)話をモデルに物語を作りだしたことから、作家としての独創性を強く発揮できない点で、アーヴィングが物語を記すに当たって語り手の存在に一層配慮したはずだと考えられるからです。アーヴィングはこの幻想的な物語を記すに当たり、首無しの騎士の存在を如実のように語ったり、合理的な説明を幻想を用いて包み隠したり、物語に登場する人物(語り手も含む)の人格を操るなど、読者に対して首無しの騎士の存在を幻想か否か、巧みにバランスを計ってストーリーを進行させています。そのため読者はこの物語を半信半疑で読み進めてしまうので、最後には首無しの騎士がイカバッド(Ichabod)の恋敵であるブロム(Brom)であったと語り手に騙されてしまいます。つまりこの物語において、語り手という存在はそれ程洗練や熟練が必要となる重要なものになると言えます。 前回、私はアーヴィングがオランダやドイツの民間伝承を読んだ(または聞いた)話をモデルに物語を作り、それをディードリッヒ・ニッカボッカーという語り手を用いて、過去に自分が体験した形跡に似せてこの物語を作成した、言い換えれば「スリーピーホロウ」はアーヴィングがエッセイの形式で書き下ろしたものではないかと論じました。しかし以上のように考察すると、「ディードリッヒ・ニッカボッカー=過去のアーヴィング」とは単純に言い切れません。本当はエッセイのような語り手こそが、読者を騙す巧妙な仕掛けだったのかもしれないからです。
by mewspap
| 2010-10-11 16:51
| 2010年度ゼミ
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