引き続き、ワシントン・アーヴィング(Washington Irving)著の『スリーピーホロウ』(Sleepy Hollow)という作品について
今回はこの物語に登場する舞台の描写について調べました。この物語はニューヨーク州にあるタリータウンという町から三マイルほど離れた窪地(他には高い丘や小さな渓谷とも表現している)にあると設定された「スリーピーホロウ」という架空の土地を舞台としてストーリーが展開していきます。(余談ですが、現在では1997年に「スリーピーホロウ」という名前になった村があります 先ずアーヴィングはこの物語の舞台設定において、冒頭でこの地を「世の中で一番静かな場所」と描写しています。その地の静けさを「移住民や種々な改善が奔流のようにぞくぞく流れ込み、絶えず変化しているが、その大きな急流もこの渓谷にはまったく気づかれずに流れていくのだ」と水に例えた表現方法を用いて描写しています。しかしスリーピーホロウとは和訳すると「まどろみの窪」という意味です。アーヴィングはスリーピーホロウを「世の中で一番静かな場所」であると同時に「眠気を誘う夢のような力がこの辺りを覆っており」と、この地には何か特別な力が作用しているようにも描いています。 私はこの「眠気を誘う夢のような力がこの辺りを覆っており」の描写が、読者に主人公・イカバッド(Icabad)が妖怪や幽霊の類と遭遇するシーンを描くための布石だと思っていました。ですが実際には妖怪や幽霊の類などは一切登場せず、物語上で登場する首無しの騎士も、その正体が主人公の恋敵であるブロムだったと物語の終盤で判明します。故に私はこの描写を、単に語り手が読者に首無しの騎士の正体が主人公の恋敵であるブロムだったというユーモアを際立たせる為のものであるのか、それとも何か他に意味は無いのかという疑問を持ちました。 そこで先週ブログに投稿する際に参考にした武藤脩二著の『印象と効果』(南雲堂,2000)という文献によると、「眠気を誘う夢のような力がこの辺りを覆っており」の描写は、私が以前投稿した主人公の描写とリンクしていると述べています。先週投稿したように、この文献では「定住の中で生まれる伝説と怪談を、ヤンキーであるイカバッドが好きになることに矛盾がある」と記載しています。その矛盾を著者はアーヴィングが「主人公にコットンマザーのニューイングランド魔術史を愛読させることで、矛盾をカバーしている」と指摘していると投稿しましたが、それに加えてスリーピーホロウという舞台用いて、矛盾をカバーしているとも述べていました。 作中には「眠気を誘う夢のような力がこの辺りを覆っており」の描写以外にも「夢想におちいる傾向は、この谷間に生まれつき住んでいる人だけでなく、しばらくそこに住む人も知らず知らずのうちにみな取りつかれる」ともあります。つまり著者はスリーピーホロウという舞台は、そこに住む人たちに夢を見させる力があるとアーヴィングが強調することでも、矛盾を克服しているのだと考察しており、私の疑問が解決できました。次はこの物語の要である、首無しの騎士についての描写について研究しようと思っています。 私は『スリーピーホロウ』という作品の描写を研究するうちに、以前先生が「アーヴィングの作品は強いテキストだ。」と仰った意味が少し理解できたような気がします。その理由は『スリーピーホロウ』を読み解くにつれ、文に無駄がない、スマートな物語だと感じるようになったからです。小説を書くにあたり、読者に矛盾無く、分かりやすい印象を与えるために、作者の描写における、またはストーリー展開における技巧は洗練され、本当に緻密に考えられて作られていると思いました。
by mewspap
| 2010-07-22 02:26
| 2010年度ゼミ
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