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歌劇『欲望という名の電車』におけるスタンリーの描かれ方――映画場と比較して――

目次
序論
第1章 ブランチとスタンリー
 第1節 初対面
 第2節 初対立
 第3節 ステラをめぐる対立
 第4節 ブランチの誕生日
 第5節 レイプ
第2章 エンディング
 第1節 映画版のエンディング
 第2節 歌劇版のエンディング
結論

参考文献

序論
 『欲望という名の電車』(A Streetcar Named Desire, 1947)は戦後のアメリカ演劇最高の傑作として名高い、テネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams)の戯曲である。また、この原作の初演から4年後には同じタイトルで、エリア・カザン(Elia Kazan)監督によって映画化されている。近年ではフィリップ・リテル(Philip Littell)の台本、アンドレ・プレヴィン(André Previn)作曲によって歌劇化されており、1998年に作曲者の指揮、サンフランシスコ・オペラ管弦楽団によって初演された。
 以上のように様々なメディアで再現されてきた『欲望という名の電車』であるが、メディアに違いはあるものの、基本的なストーリーは変わらない。しかし三者には注目すべき差異がある。その最たる違いはエンディングにあり、『欲望という名の電車』の見方や解釈に大きな影響を与える。お嬢様育ちで繊細なブランチ(Blanche DuBois)は義弟のスタンリー(Stanley Kowalski)にレイプされ、発狂し、精神病院へと搬送される悲劇のヒロインである。暴力によって義姉を犯したスタンリーの荒々しさが浮き彫りになるが、一方でスタンリーがそうせざるを得なかった理由や正当性が明確になり、彼に共感できるならば、ブランチは非難されるべき存在とも考えることができる。
 歌劇版の作曲者であるプレヴィンが「劇の本質を見失わないように細心の注意を払いました」(1)と語っているが、本論はスタンリーに共感できる可能性があるかという観点から、それぞれのメディアのエンディングを考察し、歌劇版が映画版に比べ、より忠実に原作を再現していることを論ずる。
 第1章では原作において、ブランチとの出会いから対立、レイプに至るまでを順に考察し、スタンリーに共感できる視点が与えられていることを論ずる。
 第2章では原作と映画版、歌劇版のエンディングを考察し、後者のほうがよりスタンリーに共感できることを論ずる。

結論
 本論では、原作においてブランチを非難すべき対象と見なすことができ、スタンリーにも共感できる見方があることを確認した上で、それぞれのメディアのエンディングを考察してきた。映画版でのスタンリーは、ブランチの排斥には成功するが、同時に妻子も失い、レイプがブランチを排斥する手段として間違っていたことが示されるため、スタンリーの粗暴さや残忍さが強く印象づけられ、彼に共感を覚えることは考え難い。しかし、歌劇版では、結末でブランチが非難されるべき存在であることが強調される。スタンリーはブランチを排斥し、元の生活を取り戻すことにも成功する。そこにはブランチを排斥し、生活を守るために、彼のレイプという行動はやむを得ないものだと共感することができる。その点で、歌劇版は映画版よりも原作に近い形で再現されているといえよう。


(1) 「アンドレ・プレヴィン(指揮/ピアノ)ディスコグラフィー」
《http://www.universal-music.co.jp/classics/release/artist/ha/andre_previn.html》
(2) Tennessee Williams, A Streetcar Named Desire (Penguin Modern Classics, 2009) 、p.3 以下原作の引用はこの本からとし、該当ページ番号を( )で表記する。
(3) 待井薫「ブルースの調べ-『欲望という名の電車』の幕切れにおける観客反応について-」、『神戸女子薬科大学人文研究』12(1985)、pp.7-8
(4) 近藤弘幸「“I don’t want REAL-ism”:『欲望という名の電車』における異性愛的な/という暴力」、『英学論考』32(2001)、p.25
(5) 同上、p.18
(6) 待井「ブルースの調べ-『欲望という名の電車』の幕切れにおける観客反応について-」、p.10
(7) 検閲の経緯についてはA Streetcar Named Desire (1951, Warner Bros. Pictures) DVD :ワーナー・ホーム・ビデオ、2006の「検閲と欲望」項を参照した。
(8) A Streetcar Named Desire (1951, Warner Bros. Pictures) DVD: ワーナー・ホーム・ビデオ、2006、chapter 27、以下映画版の引用はこのDVDからとし、該当チャプターを (movie,) で表記する。
(9) 「歌劇《欲望という名の電車》」(1998) CD: ユニバーサル・ミュージック、1999、ブックレット、p.12
(10) 石塚浩司『ウィリアムズ―暗がりの詩人―』(冬樹社, 1985)、p.32
(11)「歌劇《欲望という名の電車》」、ブックレット、p.12
(12) A Streetcar Named Desire (1998, Educational Broadcasting Corporation & San Francisco Opera Association) DVD :Image Entertainment、1998、chapter 4-20、以下歌劇版の引用はこのDVDからとし、該当チャプターを(opera,)で表記する。

参考文献
テネシー・ウィリアムズ、小田島恒志訳『欲望という名の電車』(慧文社, 2005)
テネシー・ウィリアムズ、浅田寛厚編注『欲望という名の電車』(金星堂, 1979)
浅里公三「作曲家プレヴィンの底知れぬ才能に脱帽―プレヴィン、自作の《欲望という名の電車》を含むオペラ三作を一挙リリース」、『レコード芸術』48(8)(1999.8)、pp.223-225
「ブランチは音楽で救われる」《http://www.geocities.jp/Lastnightconcert/040518.htm》
「Il quaderno d'Estate」《http://natsu.at.webry.info/200904/article_9.html》
「欲望という名の電車 パウロアカギカズヒコ」《http://www.bmp.jp/books/101.htm》
「東京室内歌劇場ホームページ」《http://www.chamber-opera.jp/》
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by mewspap | 2010-03-27 15:48 | 2009年度卒論


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